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『海よりもまだ深く』『殿、利息でござる!』『ルーム』

2016.4.1

201604_umiyorimomadaPhoto by Kerry Hayes © 2016 フジテレビジョン バンダイビジュアル AOI Pro. ギャガ
『海よりもまだ深く』公式サイトはこちら

 『そして父になる』『海街diary』の是枝裕和監督が、またまた忘れられない、鋭く記憶に残る映画を生み出しました。『海よりもまだ深く』です。キャプションは「夢見た未来とはちがう今を生きる、元家族の物語」。

 主人公は、笑ってしまうほどのダメ人生を更新中の中年男、良多。15年前に文学賞を一度取ったきりの売れない作家で、今は興信所に勤めているが、周囲にも自分にも「小説のための取材」だと言い訳している。妻の響子には愛想を尽かされ離婚。11歳の息子、真悟の養育費も満足に払えないくせに未練たっぷりの良多は、探偵技を駆使して響子を張り込み、彼女に新しい恋人ができたことにショックを受ける。

 人生なんて誰もが初めてなのだし、結婚や子育てにベテランなんてあり得ないのだから、「こんなはずじゃなかった」と思うのが人生そのものの真実なのです。私たちみんなが、子供の頃になりたかった大人になれるわけではありません。映画は、嵐の一夜を共に過ごすことで、忘れられない劇的な一夜とはなるが、実人生は、じわじわと、だらだらと続いてゆく。

 『家族はつらいよ』ほど気楽には笑えませんが、人生の真実を気づかせてくれる、とてもいとしい、忘れられない映画です。

 米アカデミー賞主演女優賞受賞の『ルーム』はすべての映画ファン必見の衝撃作です。私は「ルーム」の世界しか知らない「少年」の視点から観ましたが、女性は母親の視点から観るのが当たり前なのと言われ、衝撃を受けました。その言に倣えば『海よりもまだ深く』は、響子(真木よう子)や淑子(樹木希林)の視点から観ることになり、男としては情けなさの極みということでしょうか。そう言えば、「なんで男は今を愛せないのかねえ」というセリフ、ドキッとしました。『海よりもまだ深く』はまるで名言の洪水のような映画です。2度、3度と楽しめます。

 『殿、利息でござる!』はタイトルを聞いてもどんな映画かイメージがわきませんが、宮城県吉岡宿での実話を映画化したものです。宿場町には、他の村とは違った宿場としての重い課役があるためそれに見合った助成金が支給されます。しかし、吉岡宿は仙台藩の直轄地でないために、助成金は支給されず課役だけがあるという片手落ちが起こっていました。重い負担に耐えかねて、吉岡宿からは夜逃げする者が続出。宿場の人口が減ると残された者の負担は更に重くなるという悪循環に陥り、このままでは宿場に住む人がいなくなってしまう。そこで、宿場の生き残りをかけて、奇想天外な策を考え出し、実行した村人たちの実話を元にした物語です。

 自分(me)のためではなく、世のため人のため(we)、どこまで誠を尽くすことができるのか。200年前の、日本と日本人の素晴らしさ、凄さがよくわかります。

 『64 ロクヨン』はめずらしく原作を読んでいなかったので、新鮮に観ました。たった1週間で終わった昭和64年。この間に起き、未解決となっている誘拐事件の顛末を描いたミステリーですが、現場と天下りエリートという警察組織の実態を初めて知りました。想像以上に楽しめると思います。

 『スポットライト 世紀のスクープ』『レヴェナント 蘇えりし者』まだまだ上映中です。お見逃しなく。

 『リリーのすべて』『さざなみ』は女性のみなさまにお任せします。『マクベス』は明後日観ます。

2016年4月26日
(フォーラムネットワーク 代表 長澤裕二)

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